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  <title type="text">部活は物語クラブで　作家になるための勉強をいっしょにしましょう</title>
  <subtitle type="html">物語クラブに入りましょう。素敵なお話から不思議なお話、こわいお話まで、さまざまな物語を楽しみましょう。
デジタル作家をしているバンベールといいます。自分の小説の勉強のために開設しました。毎日少しずつなら読めるかと思って、こういう形式にしました。作家をめざしている方、小説の好きな方、いっしょに勉強しませんか。 </subtitle>
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  <updated>2006-10-13T20:53:43+09:00</updated>
  <author><name>バンベール</name></author>
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    <published>2006-10-27T10:03:28+09:00</published> 
    <updated>2006-10-27T10:03:28+09:00</updated> 
    <category term="菊池寛「真珠夫人」" label="菊池寛「真珠夫人」" />
    <title>長編小説の勉強１●菊池寛「真珠夫人」４</title>
    <content mode="escaped" type="text/html" xml:lang="utf-8"> 
      <![CDATA[<p><font size="4">&nbsp;長編小説の勉強１●菊池寛「真珠夫人」４</font></p>
<p><font size="4"></font></p>
<p><font size="4">　　　　　　　　四</font></p>
<p><font size="4">　洋服を着た大男は、信一郎と同乗すべき客を、迎へて来る為に、駅の真向ひにある待合所の方へ行つた。<br />
　信一郎は、大男の後姿を見ながら思つた、どうせ、旅行中のことだから、どんな人間との合乗《あひのり》でもたかが三四十分の辛抱だから、介意《かまは》ないが、それでも感じのいゝ、道伴《みちづれ》であつて呉れゝばいゝと思つた。傲然とふんぞり返るやうな、成金風の湯治階級の男なぞであつたら、堪らないと思つた。彼はでつぷりと肥つた男が、実印を刻んだ金指輪をでも、光らせながら、大男に連れられて、やつて来るのではないかしらと思つた。それとも、意外に美しい女か何かぢやないかしらと思つた。が、まさか相当な位置の婦人が、合乗を承諾することもあるまいと、思ひ返した。<br />
</font></p>
<p><font size="4">　彼は一寸した好奇心を唆られながら、暫らくの伴侶たるべき人の出て来るのを、待つてゐた。<br />
</font></p>
<p><font size="4">　三分ばかり待つた後だつたらう。やつと、交渉が纏つたと見え、大男はニコ／＼笑ひながら、先きに立つて待合所から立ち現れた。その刹那に、信一郎は大男の肩越に、チラリと角帽を被《かぶ》つた学生姿を見たのである。彼は同乗者が学生であるのを欣んだ。殊に、自分の母校――と云ふ程の親しみは持つてゐなかつたが――の学生であるのを欣んだ。<br />
</font></p>
<p><font size="4">「お待たせしました。此の方です。」<br />
　さう云ひながら、大男は学生を、信一郎に紹介した。<br />
「御迷惑でせうが。」と、信一郎は快活に、挨拶した。学生は頭を下げた。が、何《なん》にも物は云はなかつた。信一郎は、学生の顔を、一目見て、その高貴な容貌に打たれざるを得なかつた。恐らく貴族か、でなければ名門の子弟なのだらう。品のよい鼻と、黒く澄み渡つた眸とが、争はれない生れのけ高さを示してゐた。殊に、け高く人懐しさうな眸が、此の青年を見る人に、いゝ感じを与へずにはゐなかつた。クレイヴネットの外套を着て、一寸した手提鞄を持つた姿は、又なく瀟洒に打ち上つて見えた。<br />
</font></p>
<p><font size="4">「それで貴君《あなた》様の方を、湯河原のお宿までお送りして、それから引き返して熱海へ行くことに、此方《こちら》の御承諾を得ましたから。」と、大男は信一郎に云つた。<br />
「さうですか。それは大変御迷惑ですな。」と、信一郎は改めて学生に挨拶した。やがて、二人は大男の指し示す自動車上の人となつた。信一郎は左側に、学生は右側に席を占めた。<br />
</font></p>
<p><font size="4">「湯河原までは、四十分、熱海までは、五十分で参りますから。」と、大男が云つた。<br />
　運転手の手は、ハンドルにかゝつた。信一郎と学生とを、乗せた自動車は、今発車したばかりの電車を追ひかけるやうに、凄じい爆音を立てたかと思ふと、まつしぐらに国府津の町を疾駆した。<br />
</font></p>
<p><font size="4">　信一郎は、もう四十分の後には、愛妻の許に行けるかと思ふと、汽車中で感じた焦燥《もどか》しさや、いらだたしさは、後なく晴れてしまつた。自動車の軽動《ジャン》に連れて身体が躍るやうに、心も軽く楽しい期待に躍つた。が、信一郎の同乗者たるかの青年は、自動車に乗つてゐるやうな意識は、少しもないやうに身を縮めて一隅に寄せたまゝその秀《ひい》でた眉を心持ひそめて、何かに思い耽つてゐるやうだつた。車窓に移り変る情景にさへ、一瞥をも与へようとはしなかつた。</font></p>
<p>&nbsp;&nbsp;</p>
<hr />
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<p>&nbsp;</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>&nbsp;</p>]]> 
    </content>
    <author>
            <name>バンベール</name>
        </author>
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    <id>monogatari.blog.shinobi.jp://entry/17</id>
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    <published>2006-10-27T09:20:18+09:00</published> 
    <updated>2006-10-27T09:20:18+09:00</updated> 
    <category term="菊池寛「真珠夫人」" label="菊池寛「真珠夫人」" />
    <title>長編小説の勉強１●菊池寛「真珠夫人」３</title>
    <content mode="escaped" type="text/html" xml:lang="utf-8"> 
      <![CDATA[<p><font size="4">長編小説の勉強１●菊池寛「真珠夫人」３</font></p>
<p><font size="4"></font></p>
<p><font size="4">　　　　　　　　三</font></p>
<p><font size="4">　汽車がプラットホームに、横付けになると、多くもなかつた乗客は、我先きにと降りてしまつた。此の駅が止まりである列車は、見る／＼裡に、洗はれたやうに、虚しくなつてしまつた。</font></p>
<font size="4">
<p><br />
　が、停車場は少しも混雑しなかつた。五十人ばかりの乗客が、改札口のところで、暫らく斑《まだら》にたゆたつた丈《だけ》であつた。<br />
</p>
<p>　信一郎は、身支度をしてゐた為に、誰よりも遅れて車室を出た。改札口を出て見ると、駅前の広場に湯本行きの電車が発車するばかりの気勢《けはひ》を見せてゐた、が、その電車も、此の前の日曜の日の混雑とは丸切り違つて、まだ腰をかける余地さへ残つてゐた。が、信一郎はその電車を見たときにガタリガタリと停留場毎に止まる、のろ／＼した途中の事が、直ぐ頭に浮かんだ。その上、小田原で乗り換へると行く手にはもつと難物が控へてゐる。それは、右は山左は海の、狭い崖端を、蜈蚣《むかで》か何かのやうにのたくつて行く軽便鉄道である。それを考へると、彼は電車に乗らうとした足を、思はず踏み止めた。湯河原まで、何うしても三時間かゝる。湯河原で降りてから、あの田舎道をガタ馬車で三十分、どうしても十時近くなつてしまふ。彼は汽車の中で感じたそれの十倍も二十倍も、いらいらしさが自分を待つてゐるのだと思ふと、何うしても電車に乗る勇気がなかつた。彼は、少しも予期しなかつた困難にでも逢つたやうに急に悄気てしまつた。丁度その時であつた。つか／＼と彼を追ひかけて来た大男があつた。<br />
</p>
<p>「もし／＼如何です。自動車にお召しになつては。」と、彼に呼びかけた。<br />
　見ると、その男は富士屋自動車と云ふ帽子を被《かぶ》つてゐた。信一郎は、急に援け舟にでも逢つたやうに救はれたやうな気持で、立ち止まつた。が、彼は賃銭の上の掛引のことを考へたので、さうした感情を、顔へは少しも出さなかつた。<br />
</p>
<p>「さうだねえ。乗つてもいゝね。安ければ。」と彼は可なり余裕を以て、答へた。<br />
「何処までいらつしやいます。」<br />
「湯河原まで。」<br />
「湯河原までぢや、十五円で参りませう。本当なれば、もう少し頂くので厶《ござ》いますけれども、此方《こつち》からお勧めするのですから。」<br />
</p>
<p>　十五円と云ふ金額を聞くと、信一郎は自動車に乗らうと云ふ心持を、スツカリ無くしてしまつた。と云つて、彼は貧しくはなかつた。一昨年法科を出て、三菱へ入つてから、今まで相当な給料を貰つてゐる。その上、郷国《くに》にある財産からの収入を合はすれば、月額五百円近い収入を持つてゐる。が十五円と云ふ金額を、湯河原へ行く時間を、わづか二三時間縮める為に払ふことは余りに贅沢過ぎた。たとひ愛妻の静子が、いかに待ちあぐんでゐるにしても。<br />
</p>
<p>「まあ、よさう。電車で行けば訳はないのだから。」と、彼は心の裡で考へてゐる事とは、全く反対な理由を云ひながら、洋服を着た大男を振り捨てゝ、電車に乗らうとした。が、大男は執念《しふね》く彼を放さなかつた。<br />
「まあ、一寸お待ちなさい。御相談があります。実は、熱海まで行かうと云ふ方があるのですが、その方と合乗《あひのり》して下さつたら、如何でせう、それならば大変格安になるのです。それならば、七円丈《だけ》出して下されば。」<br />
　信一郎の心は可なり動かされた。彼は、電車の踏み段の棒にやらうとした手を、引つ込めながら云つた。「一体、そのお客とはどんな人なのだい？」</p>
<p>&nbsp;</p>
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<p>&nbsp;</p>
<p>&nbsp;</p>
</font>]]> 
    </content>
    <author>
            <name>バンベール</name>
        </author>
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    <id>monogatari.blog.shinobi.jp://entry/16</id>
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    <published>2006-10-27T08:55:26+09:00</published> 
    <updated>2006-10-27T08:55:26+09:00</updated> 
    <category term="菊池寛「真珠夫人」" label="菊池寛「真珠夫人」" />
    <title>長編小説の勉強１●菊池寛「真珠夫人」2</title>
    <content mode="escaped" type="text/html" xml:lang="utf-8"> 
      <![CDATA[<p><font size="4">長編小説の勉強１●菊池寛「真珠夫人」2</font></p>
<p><font size="4">　　　　　　　　二</font></p>
<p><font size="4">　湯の宿の欄干に身を靠《もた》せて、自分を待ちあぐんでゐる愛妻の面影が、汽車の車輪の廻転に連れて消えたりかつ浮かんだりした。それほど、信一郎は新しく婚した静子に、心も身も与へてゐたのである。<br />
<br />
　つい三月ほど前に、田舎で挙げた結婚式のことを考へても、上京の途すがら奈良や京都に足を止めた蜜月旅行らしい幾日かの事を考へても、彼は静子を獲たことが、どんなに幸福を意味してゐるかをしみじみと悟ることが出来た。<br />
<br />
　結婚の式場で示した彼女の、処女らしい羞しさと、浄らかさ、それに続いた同棲生活に於て、自分に投げて来た全身的な信頼、日が経つに連れて、埋もれてゐた宝玉のやうに、だんだん現はれて来る彼女のいろいろな美質、さうしたことを、取とめもなく考へてゐると、信一郎は一刻も早く、目的地に着いて初々しい静子の透き通るやうなくゝり顎の辺《あたり》を、軽く撫《パット》してやりたくて、仕様がなくなつて来た。<br />
<br />
『僅か一週間、離れてゐると、もうそんなに逢ひたくて、堪らないのか。』と自分自身心の中で、さう反問すると、信一郎は駄々つ子か何かのやうに、じれ切つてゐる自分が気恥しくないこともなかつた。<br />
<br />
　が、新婚後、まだ幾日にもならない信一郎に取つては、僅《わずか》一週間ばかりの短い月日が、どんなにか長く、三月も四月もに相当するやうに思はれた事だらう。静子が、急性肺炎の病後のために、医者から温泉行を、勧められた時にも、信一郎は自分の手許から、妻を半日でも一日でも、手放して置くことが、不安な淋しい事のやうに思はれて、仕方がなかつた。それかと云つて、結婚のため、半月以上も、勤先を欠勤してゐる彼には休暇を貰ふ口実などは、何も残つてゐなかつた。彼は止むなく先週の日曜日に妻と女中とを、湯河原へ伴ふと、直ぐその日に東京へ帰つて来たのである。<br />
<br />
　今朝着いた手紙から見ると、もうスツカリ好くなつてゐるに違ひない。明日の日曜に、自分と一緒に帰つてもいゝと、云ひ出すかも知れない。軽便鉄道の駅までは、迎へに来てゐるかも知れない。いや、静子は、そんなことに気の利く女ぢやない。あれは、おとなしく慎しく待つてゐる女だ。屹度、あの湯の新築の二階の欄干にもたれて、藤木川に懸つてゐる木橋をぢつと見詰めてゐるに違ひない。そして、馬車や自動車が、あの橋板をとゞろかす毎に、静子も自分が来たのではないかと、彼女の小さい胸を轟かしてゐるに違ひない。<br />
<br />
　信一郎の、かうした愛妻を中心とした、いろいろな想像は、重く垂下がつた夕方の雲を劈《つんざ》くやうな、鋭い汽笛の声で破られた。窓から首を出して見ると、一帯の松林の樹の間から、国府津に特有な、あの凄味を帯びた真蒼な海が、暮れ方の光を暗く照り返してゐた。<br />
<br />
　秋の末か何かのやうに、見渡すかぎり、陸や海は、蕭条たる色を帯びてゐた。が、信一郎は国府津だと知ると、蘇つたやうに、座席を蹴つて立ち上つた。</font></p>
<p><font size="4"></font></p>
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<p><hr />
</p>
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<p>&nbsp;</p>
<p>&nbsp;</p>]]> 
    </content>
    <author>
            <name>バンベール</name>
        </author>
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    <id>monogatari.blog.shinobi.jp://entry/15</id>
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    <published>2006-10-27T08:50:10+09:00</published> 
    <updated>2006-10-27T08:50:10+09:00</updated> 
    <category term="小説創作のコツ" label="小説創作のコツ" />
    <title>小説創作のコツ●小説を書写しよう</title>
    <content mode="escaped" type="text/html" xml:lang="utf-8"> 
      <![CDATA[<p><font size="4">小説創作のコツ●小説を書写しよう</font></p>
<p><font size="4">タイトルどおり、他の人の小説を、原稿用紙やノートなどに実際に書いていくことです。</font></p>
<p><font size="4">現在はパソコンがあるので、パソコンで入力していくのもいいです。</font></p>
<p><font size="4">注意する点は、文章のリズムや小説の構成などを考えながらすることです。</font></p>
<p><font size="4">この方法は意外に実力を伸ばせます。</font></p>
<p><font size="4">また、自分の小説をかく前に、この小説の書写の訓練をすると、緊張がほぐれて、創作しやすくなります。</font></p>
<p><font size="4">三浦哲郎さんは、創作する前に、親しいひとなどにハガキを書くそうです。これも緊張をほぐす働きがありますね。</font></p>
<p><font size="4">&nbsp;</font></p>
<p><br />
<br />
</p>
<hr />
<p>&nbsp;</p>
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<p>&nbsp;</p>]]> 
    </content>
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            <name>バンベール</name>
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    <id>monogatari.blog.shinobi.jp://entry/14</id>
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    <published>2006-10-27T08:30:00+09:00</published> 
    <updated>2006-10-27T08:30:00+09:00</updated> 
    <category term="菊池寛「真珠夫人」" label="菊池寛「真珠夫人」" />
    <title>新しい課題　菊池寛「真珠夫人」1</title>
    <content mode="escaped" type="text/html" xml:lang="utf-8"> 
      <![CDATA[<p><font size="4">今度は長編小説を熟読しましょう。<br />
<br />
毎日少しずつアップしますので無理なく読めます。<br />
長編小説を書いたことのないひとは味わいながら読みましょう。<br />
<br />
小説向上のひとつに、他のひとのかいた作品を暗記するまで読むという方法があります。<br />
小説を書くというものの変形方法ですが、この方法もいいです。<br />
<br />
小説創作のコツを近いうちにアップしていきますので、よろしくおねがいします。<br />
<br />
長編小説の１回目は菊池寛「真珠夫人」です。<br />
菊池寛は手だれの作家ですね。<br />
真珠夫人はテレビでもドラマになったので、ドラマとのちがいをみるのもよいですね。<br />
<br />
<br />
菊池寛「真珠夫人」</font></p>
<p><font size="4">　奇禍</font></p>
<p><font size="4">　　　　　　　　一</font></p>
<p><font size="4">　汽車が大船を離れた頃から、信一郎の心は、段々烈しくなつて行く焦燥《もどか》しさで、満たされてゐた。国府津迄の、まだ五つも六つもある駅毎に、汽車が小刻みに、停車せねばならぬことが、彼の心持を可なり、いら立たせてゐるのであつた。<br />
<br />
　彼は、一刻も早く静子に、会ひたかつた。そして彼の愛撫に、渇《かつ》ゑてゐる彼女を、思ふさま、いたはつてやりたかつた。<br />
<br />
　時は六月の初《はじめ》であつた。汽車の線路に添うて、潮のやうに起伏してゐる山や森の緑は、少年のやうな若々しさを失つて、むつとするやうなあくどさで車窓に迫つて来てゐた。たゞ、所々植付けられたばかりの早苗が、軽いほのぼのとした緑を、初夏の風の下に、漂はせてゐるのであつた。<br />
<br />
　常ならば、箱根から伊豆半島の温泉へ、志ざす人々で、一杯になつてゐる筈の二等室も、春と夏との間の、湯治には半端な時節であるのと、一週間ばかり雨が、降り続いた揚句である為とで、それらしい乗客の影さへ見えなかつた。たゞ仏蘭西《フランス》人らしい老年の夫婦が、一人息子らしい十五六の少年を連れて、車室の一隅を占めてゐるのが、信一郎の注意を、最初から惹いてゐるだけである。彼は、若い男鹿の四肢のやうに、スラリと娜《しなやか》な少年の姿を、飽かず眺めたり、父と母とに迭《かた》みに話しかける簡単な会話に、耳を傾けたりしてゐた。此の一行の外には、洋服を着た会社員らしい二人連と、田舎娘とその母親らしい女連が、乗り合はしてゐるだけである。<br />
<br />
　が、あの湯治階級と云つたやうな、男も女も、大島の揃か何かを着て、金や白金《プラチナ》や宝石の装身具を身体のあらゆる部分に、燦かしてゐるやうな人達が、乗り合はしてゐないことは信一郎にとつて結局気楽だつた。彼等は、屹度《きつと》声高に、喋り散らしたり、何かを食べ散らしたり、無作法に振舞つたりすることに依つて、現在以上に信一郎の心持をいらいらさせたに違ひなかつたから。<br />
<br />
　日は、深く翳つてゐた。汽車の進むに従つて、隠見する相模灘はすゝけた銀の如く、底光を帯《おび》たまゝ澱んでゐた。先刻《さつき》まで、見えてゐた天城山も、何時の間にか、灰色に塗り隠されて了つてゐた。相模灘を圧してゐる水平線の腰の辺りには、雨をでも含んでゐさうな、暗鬱な雲が低迷してゐた。もう、午後四時を廻つてゐた。<br />
<br />
『静子が待ちあぐんでゐるに違ひない。』と思ふ毎に、汽車の廻転が殊更遅くなるやうに思はれた。信一郎は、いらいらしくなつて来る心を、ぢつと抑へ付けて、湯河原の湯宿に、自分を待つてゐる若き愛妻の面影を、空《くう》に描いて見た。何よりも先づ、その石竹色に湿《うる》んでゐる頬に、微笑の先駆として浮かんで来る、笑靨《ゑくぼ》が現はれた。それに続いて、慎ましい脣、高くはないけれども穏やかな品のいゝ鼻。が、そんな目鼻立よりも、顔全体に現はれてゐる処女らしい含羞性《シャイネス》、それを思ひ出す毎に、信一郎自身の表情が、たるんで来て、其処には居合はさぬ妻に対する愛撫の微笑が、何時の間にか、浮かんでゐた。彼は、それを誰かに、気付かれはしないかと、恥しげに車内を見廻はした。が、例の仏蘭西《フランス》の少年が、その時、<br />
「お母親さん《マヽン》！」と声高に呼びかけた外には、乗合の人々は、銘々に何かを考へてゐるらしかつた。<br />
　汽車は、海近い松林の間を、轟々と駆け過ぎてゐるのであつた。<br />
</font></p>
<p><br />
</p>
<hr />
<br />
<a target="_blank" href="http://www.store-mix.com/ko-bai/product.php?afid=8379229&amp;pid=615851&amp;oid=5684&amp;hid=82762 ">杜仲茶２か月で楽々５キロ　ダイエット</a><br />
<br />
<p>&nbsp;</p>]]> 
    </content>
    <author>
            <name>バンベール</name>
        </author>
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    <id>monogatari.blog.shinobi.jp://entry/13</id>
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    <published>2006-10-17T13:33:09+09:00</published> 
    <updated>2006-10-17T13:33:09+09:00</updated> 
    <category term="浜尾四郎「夢の殺人」" label="浜尾四郎「夢の殺人」" />
    <title>浜尾四郎「夢の殺人」</title>
    <content mode="escaped" type="text/html" xml:lang="utf-8"> 
      <![CDATA[<p><span style="FONT-SIZE: 110%"><span style="LINE-HEIGHT: 180%"><font size="2">浜尾四郎「夢の殺人」</font></span></span>をお読みくださいまして、ありがとうございました。</p>
<p>あなたがこの作品で想うところがあったら、その感想などをこちらのコメントに書いてください。</p>
<p>コメントは表示しています。</p>]]> 
    </content>
    <author>
            <name>バンベール</name>
        </author>
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    <id>monogatari.blog.shinobi.jp://entry/12</id>
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    <published>2006-10-17T13:30:32+09:00</published> 
    <updated>2006-10-17T13:30:32+09:00</updated> 
    <category term="浜尾四郎「夢の殺人」" label="浜尾四郎「夢の殺人」" />
    <title>浜尾四郎「夢の殺人」(06)</title>
    <content mode="escaped" type="text/html" xml:lang="utf-8"> 
      <![CDATA[<p><font size="4">　要之助は其の夜のうちに捕縛された。<br />
　彼は然し警察官に対して、全然自分には藤次郎を殺したおぼえはないと主張した。<br />
　検事の前に於いても無論その主張を維持した。彼は、若し彼が藤次郎を殺したとすればそれは全く睡眠中の行動である。自分は今まで夢遊病の発作に屡々おそわれたことがある。殊に国にいた頃には、父親の頭をまきざっ棒で殴りつけたこともあったと述べた。<br />
　Ｎ亭の主人は其の主張を裏書きした。<br />
　用いた短刀と傍にあった文鎮とは、然し、Ｎ亭の主人の知らぬ物であった。のみならず斯る危険な物はあの部屋にはなかったと思う、と主人は述べた。<br />
　けれども、浅草の商人達は要之助にとって幸にも売った相手をおぼえていた。短刀も文鎮も其の前夜、要之助と一緒に来た男に売ったことをはっきりと述べた。そうして被害者の写真を見るに及んで二人の商人は買手を確認した。<br />
　兇器の出所《でどころ》、買手、及びそれがその場に在った理由は明かにされた。<br />
　要之助が、被害者とその前夜映画を見たことは、要之助の詳しい陳述其の他プロ等によって認められた。而も十分に殺伐な映画を見たことが明かになった。要之助は、藤次郎がもしその予定の犯罪を行《や》ったならば述べたであろう位に、詳細にその夜見た映画について陳述をなしたのであった。<br />
　無論、彼の犯行当時の精神状態は専門家の鑑定に附せられた。その結果は要之助の陳述の通り、彼の殺人は全く無意識行動なることを推定せらるるに至った。<br />
　予審判事は事件を公判に移すべきものにあらずと認めた。要之助は遂に釈放せられたのである。<br />
<br />
　事件はただ之だけである。<br />
　然し、果して要之助は夢遊病の発作で藤次郎を殺したのであろうか。それ以外には考えることは出来ぬだろうか。<br />
　鑑定は無論慎重にされたであろう。<br />
　けれどそれは絶対に真実を掴み得るものだろうか。誤ることはないだろうか。<br />
　又、仮りに之を殺人事件とすると、検事も判事も、その動機を説明することが非常に困難だったに違いない。彼等は法律家であり司直の職に在るが故に、此の場合、殺人の動機を求めて而して説明しなければならない。<br />
<br />
　　　　　　&times;　　&times;　　&times;　　&times;<br />
<br />
　医者でもなく、又法律家でもない人々は、必ずしも此の鑑定を絶対に信頼する必要もなく、又動機を確実に証明する必要もない。<br />
　要之助は全く睡眠中に藤次郎を殺したのだろうか。<br />
　彼に、殺人の動機は認められないだろうか。例えば、仮りに要之助が&hellip;&hellip;いや、之以上は読者の自由な想像に任せておく方が正しいかも知れない。<br />
　　　　　　　　　　　　　　（〈新青年〉昭和四年十月号発表）</font><br />
<br />
<br />
<hr />
</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>&nbsp;</p>]]> 
    </content>
    <author>
            <name>バンベール</name>
        </author>
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    <id>monogatari.blog.shinobi.jp://entry/11</id>
    <link rel="alternate" type="text/html" href="http://monogatari.blog.shinobi.jp/%E6%B5%9C%E5%B0%BE%E5%9B%9B%E9%83%8E%E3%80%8C%E5%A4%A2%E3%81%AE%E6%AE%BA%E4%BA%BA%E3%80%8D/%E6%B5%9C%E5%B0%BE%E5%9B%9B%E9%83%8E%E3%80%8C%E5%A4%A2%E3%81%AE%E6%AE%BA%E4%BA%BA%E3%80%8D-05-" />
    <published>2006-10-17T13:22:58+09:00</published> 
    <updated>2006-10-17T13:22:58+09:00</updated> 
    <category term="浜尾四郎「夢の殺人」" label="浜尾四郎「夢の殺人」" />
    <title>浜尾四郎「夢の殺人」(05)</title>
    <content mode="escaped" type="text/html" xml:lang="utf-8"> 
      <![CDATA[<p><font size="4">　藤次郎は、正当防衛に藉口《しゃこう》して要之助を殺そうとするのだ。要之助がこれ迄、夢遊病の発作に襲われた事は多くの人々が知っている所である。現にＮ亭に於ける要之助の部屋（即ち藤次郎要之助の寝室）には危険な物は一さいおいてはない。而も、来てから半年しかならない間に彼は、屡々夢中遊行をしている。其の中一回は現に彼が見ている。<br />
　だから其の夜、仮りに要之助が発作に襲われたとしても決して不思議はない。そうして夢中で傍にねている藤次郎に斬ってかかったとしても必ずしもそれはあり得ないことではない。<br />
　ただ従来、斬ってかかるような物がおいてない。それ故、藤次郎は一振の短刀を求めたのである。<br />
　料理場においてある庖丁のような物はいつも見なれているから恐らく要之助に深い印象を与えまい。それ故、藤次郎はわざわざ短刀を買った。而《そ》して要之助にはっきりと印象を与える為に度々見せたり持たせたりした。<br />
　更に、その夜、発作をおこす近因として殺伐な映画を十分に見せた。要之助は非常な熱心さを以て之を見た。<br />
　医者でない藤次郎には之以上の手段は思い付かなかった。そうして之で十分だと信じたのである。<br />
　彼が何故に短刀を求めたかという理由は、一応要之助に説明がしてある。もとより出鱈目である。国の友人なるものを調べられればすぐばれる嘘である。然し彼は其の嘘を要之助一人にしか語ってない。要之助が殺されてしまえば、彼は調べられる時、何とでも外に出たらめの理由を云えば好いわけである。而して文鎮を求めた理由もそれと同様なのだ。<br />
　二人が映画館で剣劇を見た事を立証する為に彼は二枚のプロを大切に持って帰って来た。而して彼等がたしかに其の夜映画館に居たことを出来るだけはっきり証拠立てる為に彼は数本の剣劇映画の場面とストーリーを十分におぼえて来た。更に、どの映画が何時に始まったか、どれが何時に終ったかという事まで時計を見て調べて来た。此の最後の小細工は実は甚だ拙劣である事を読者は直ちに理解せられるだろう。<br />
　彼はねる時、わざと短刀を傍の戸棚に入れて戸を開け放しておくつもりである。勿論之は要之助に十分見ていられなければならぬ。<br />
　深夜、恐らくは二時頃、彼は起きる。そうして、短刀を取り出す。次に自ら咽喉の辺を軽く二ケ所程切る。それから柄の所をすっかり拭いて、（之は勿論自分が最後の使用者なる事を見破られぬ為である）側にねて居る要之助の右手に握らせる。藤次郎は要之助が左利でない事を知っている。之は全然眠っている所をやらないで、ゆすぶりおこして要之助がねぼけまなこでいる時の方が却ってうまく行くであろう。<br />
　そうして要之助が握ったとき、機を失わず鉄の文鎮で一撃にそのみけん［＃「みけん」に傍点］を割るのだ。<br />
　勝負は一瞬の間だ。要之助は直ちに死ぬにきまっている。つづいて彼はいかにも争っているような悲鳴をあげる。要之助の死体の位置を適宜《てきぎ》の所におく。斯くて彼は完全に殺人を行う事が出来、所罰《しょばつ》を免るるを得るのだ。<br />
　彼の申立は頗《すこぶ》る簡単に行く筈である。彼は係官に対し次の如くいうつもりである。<br />
「私ハ夜中ニ何ダカ咽喉ニ冷《ひや》リトシタモノヲ感ジマシタ。ツヅイテ刺スヨウナ痛ミヲオボエマシタノデハット思ッテ目ヲ開クト要之助ガ悪鬼ノヨウナ相《そう》ヲシテ白イ光ルモノヲモッテ私ニ馬乗リニナッテイマス。部屋ニハ電気ガツイテ居マスカラハッキリワカリマス。私ハ次ノ瞬間ニ殺サレルト思イマシタ。身体ハ押エラレテ動ケマセヌ。勿論逃ゲルヒマハアリマセヌ。思ワズ右手ヲノバスト手ニ何カ堅イ物ガサワッタノデ夢中デ要之助ノ顔ヲナグリツケマスト彼ハ『アッ』ト云ッテ倒レマシタ。私ハソレデ直グ人々ヲ呼ンダノデアリマス」<br />
　検事が果してこの言を信じるだろうか、無論信じないわけはない。あとは主人其の他が要之助の平素に就いて述べてくれるであろう。<br />
　実に素ばらしい企てである、と藤次郎は考えた。そうして思わず微笑した。<br />
　愈々《いよいよ》寝《しん》につく時が来た。藤次郎は予定通り短刀を要之助の目の前で戸棚にしまった。あとはもうねるばかりである。<br />
　要之助は美しい横顔を見せてすぐに眠りにおちたらしい。藤次郎はつくづくと其の顔に見入った。自然が男性の肉体に与えた美しい巧みである。然し藤次郎には同性の美しさに好意をもつことは断じて出来なかった。彼は今更、要之助の顔を呪った。<br />
　十二時半になり一時頃になった。時は正に真夜半《まよなか》頃になろうとしている。然しまだ何となくあたりが落ち付かぬようだ。<br />
　藤次郎は、健康な肉体が必然に伴って来る烈しい睡魔と戦わねばならなかった。<br />
　彼ははじめ余りに緊張したせいか、二時頃に至ってますます甚しくつかれはじめた。<br />
　藤次郎はいつともなしにとろとろしかかった。<br />
　と、彼は不思議な夢に襲われはじめた。<br />
　要之助がいつの間にか立っている。見るとその片手にはきらりと閃く物を持っている。あっと思う間に、要之助が、彼の側によって来た。次の瞬間に要之助の顔が、映画の大写しのように彼の顔の前に迫った。<br />
　とたんに彼は咽喉の所にひやりと冷い物がふれたと感じた。彼は叫ぼうとした。夢ではない！とぴりっとした刹那、たとえようのない焼けるような痛みを咽喉のまわりに感じると同時に、藤次郎の意識は永遠に失われてしまったのである。</font><br />
<br />
<br />
<hr />
</p>
<p>藉口《しゃこう》　　　ある事にかこつけて言いわけをすること。口実にすること。<br />
</p>
<p><hr />
</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>&nbsp;</p>]]> 
    </content>
    <author>
            <name>バンベール</name>
        </author>
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    <id>monogatari.blog.shinobi.jp://entry/10</id>
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    <published>2006-10-17T13:20:06+09:00</published> 
    <updated>2006-10-17T13:20:06+09:00</updated> 
    <category term="浜尾四郎「夢の殺人」" label="浜尾四郎「夢の殺人」" />
    <title>浜尾四郎「夢の殺人」(04)</title>
    <content mode="escaped" type="text/html" xml:lang="utf-8"> 
      <![CDATA[<p dir="ltr" style="MARGIN-RIGHT: 0px"><font size="4">　その夜彼は帰ると、かねてとっていた講義録を盛んにひっぱり出して何かしきりに読み耽っていた。夜更《よふけ》まで、その講義録の中の数行が目にちらついて消えなかった。それは次の文字である。<br />
<br />
正当防衛ハ不正ノ侵害ニ対スルコトヲ必要トスル。而シテ不正トハ其ノ侵害ガ法律上許容セラレヌモノデアルコトヲ意味スル。故ニ、客観的ニ不正デアレバソレデ足リル。責任無能者ノ行為、犯意過失無キ行為ニ対シテモ正当防衛ハ成立スル。<br />
<br />
<br />
　次の日から藤次郎は全く殺人の計画に没頭した。彼が前の日「やっつけちまおう」と云った時は何等《なんら》の用意はなかった。然し最早、犯罪の種は彼の頭の中で芽を出しはじめたのであった。<br />
　藤次郎が真面目であること、かたいこと、が彼をして犯罪人たらしめない、とは不幸にして云い得ない。彼が法律を多少知っていることが彼をして決して犯罪をさせないとはなお言えない。<br />
　そうして一番不幸な事は、要之助さえいなくなれば美代子が再び彼に好意を見せるだろうという極めて単純な、いわば無邪気な考えを藤次郎がどうしても捨て得ないということである。<br />
　如何にして要之助を殺すか、如何にして、法の制裁を逃《のが》れるか、之以外のことは問題ではなかった。此の二つにさえ成功すれば美代子に対する恋も当然成功するように考えられた。<br />
「偶然」が彼に不思議な暗示を与えた。<br />
　彼の知っている限りに於いては、責任無能力なる者の行為に対しても正当防衛が成立する。而して彼の知る限りに於いて要之助は、ひどい夢遊病である。夢遊病患者が夢中で犯罪を犯すことは無論有り得る。現に犯す有様を彼はスクリーンの上でもまざまざと見ている。（尤も之は夢遊病とは少し違うけれども）<br />
　藤次郎が、彼の法律知識と、映画の印象とを之より行わんとする犯罪に、如何に連絡せしめんとするか。読者は既に推察せられたことと思う。<br />
　彼は数日の後、或る計画を頭の中で完成した。<br />
<br />
　一週間程過ぎた或る日の夕方、藤次郎は再び浅草に現われた。此の時は要之助も一緒である。要之助の休み日なので、藤次郎は主人に嘘を云って自分も夕方から出たのだった。彼は要之助を浅草までうまくつれ出した。之からは凡てかねての計画通りにやらなければならない。<br />
　二人は人通りの多い池の傍に立ったが、ふと藤次郎は或る露店の前に立ち止った。そこには白鞘の短刀がたくさんならべられている。藤次郎はそのうちの一つを買い求めた。<br />
「ね、君、之は相当切れそうだね、実はこないだ東京に一寸来て、間もなく又帰った国の友達がね、護身用に一ついい短刀がほしいって云って来たんだよ。あしたあたり送ってやろうと思うがどうだい、一寸持ち工合は」<br />
　藤次郎は、斯う云って要之助にその短刀を手渡しして見た。<br />
　要之助は案外之に興味をもっているらしく中身を見ながら、<br />
「うん、こりゃ仲々いい。人でも獣でも之なら一突きだ」<br />
　と答えた。<br />
　藤次郎は、もう一軒の店で割に大きな鉄の文鎮を求めた。之も友達に頼まれた事にした。彼の計画によれば此の文鎮こそ殺人に用いらるべきものなのである。<br />
<br />
　映画館のスチルを見ながら、藤次郎は出来るだけ殺伐な光景を探しまわった。そうしてとうとう或る日本物ばかり映写される○○館に要之助を連れ込んだのである。<br />
　彼の見立ては確かに成功した。<br />
　写し出される映画は殆ど皆剣劇だった。殊に或る有名な映画俳優が、主役になっている映画には、殺人狂とさえ思われる人物が活躍した。その人物は全巻を通じて何十人という人間を斬り殺したり、突き殺したりした。<br />
　刀がぎらりと閃いて、斬り手の殺伐な表情が大写しになる度毎に、藤次郎は要之助の横顔をちらりと見た。<br />
　要之助は夢中で、スクリーンの殺人に見入った。<br />
「もっと殺せ、もっと斬れ」<br />
　と藤次郎は心の中で叫んだ。<br />
　要之助も或いはそう思っているのではなかろうか。そう推察されてもいい程、彼も亦熱心な観客の一人であった。<br />
　彼等がＮ亭に戻ったのは其の夜の十一時頃だった。<br />
　今更藤次郎の計画を説明するのは読者にとっては或いは煩わしい事かも知れない。然しここに一応それを明瞭にしておく。</font><br />
<br />
<br />
</p>
<p><hr />
</p>
<p>&nbsp;</p>]]> 
    </content>
    <author>
            <name>バンベール</name>
        </author>
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    <id>monogatari.blog.shinobi.jp://entry/9</id>
    <link rel="alternate" type="text/html" href="http://monogatari.blog.shinobi.jp/%E6%B5%9C%E5%B0%BE%E5%9B%9B%E9%83%8E%E3%80%8C%E5%A4%A2%E3%81%AE%E6%AE%BA%E4%BA%BA%E3%80%8D/%E6%B5%9C%E5%B0%BE%E5%9B%9B%E9%83%8E%E3%80%8C%E5%A4%A2%E3%81%AE%E6%AE%BA%E4%BA%BA%E3%80%8D-03-" />
    <published>2006-10-17T13:12:33+09:00</published> 
    <updated>2006-10-17T13:12:33+09:00</updated> 
    <category term="浜尾四郎「夢の殺人」" label="浜尾四郎「夢の殺人」" />
    <title>浜尾四郎「夢の殺人」(03)</title>
    <content mode="escaped" type="text/html" xml:lang="utf-8"> 
      <![CDATA[<p><font size="4">　秋の日かげはうららかに射している。<br />
　藤次郎は燃えるような胸の焔をいだきながら浅草公園の池の辺を歩いている。<br />
　何ともかとも云いようがない。それにわざわざ&hellip;&hellip;。<br />
　虫も殺さぬような顔をした要之助があんな図々しいことを云ったり、したりするとは思わなかった。女も女だが男も男だ。奴は全く食わせものだったのだ。いやに真面目らしくおとなしく振舞っていたのは女をひっかける手段に過ぎなかったのだ。田舎にいる頃、あれでは何をしていたか判ったものじゃない。<br />
　斯う考えた時、藤次郎は百足《むかで》でもふみつけたような気持に襲われた。<br />
　今朝、国から来た友達をつれて東京見物をさせてやるから、という好加減《いいかげん》な口実を設けて一日のひまを貰った時、主人にいっそ昨夜のことを告げてやろうかとも考えた。然しそれは自分にとって余りいい結果をもたらさないかも知れない、他の方法で要之助が存在しないことになれば或いは局面が一転するかも知れない、と思って彼は何も云わなかったのだ。<br />
　昨夜殆ど眠れなかったために、一日さぼろうと思った彼は、秋の一日を草原の中でねて暮そうかとも考えたが、結局、いつもの慰安所たる公園に来てしまった。彼は、どこかの映画館に入るつもりなのである。<br />
　朝めしを食う気がしなかったので食べずに出て来たせいか、妙に空腹を感じて来た。<br />
　然しわざわざめし屋に入る気もしなかった藤次郎は、池の角の所に出ていたゆで卵屋の所で、四ツばかり卵を買うとそれをそのまま袂に入れた。彼は映画を見ながら之を食べるつもりなのである。<br />
　卵を買ってぶらぶら歩いて行くと人だかりがしていた。見ると人力車をたてかけてその上に袈裟衣をつけた僧形《そうぎょう》の人が一生懸命に何か云っている。彼はふと足をとめてその話をきいた。何か宗教の話ではないかと思ったのだ。所が突然その坊さんは、<br />
「然るに現内閣は&hellip;&hellip;」<br />
　と云いだした。藤次郎は何となく興味を失って、そのさきにあった群衆の方に歩《あゆみ》をうつした。彼は今どんな話にも興味がもてない。然しどんな話にでも、興味をもとうと努めているのである。<br />
　その一つさきの群衆の中心には角帽を冠った大学生風の男が手に一冊の本を携えてしきりに喋舌《しゃべ》っている。否どなっている。<br />
「諸君は恐らく、そんな事はめったにあるものではないというだろう、と思うから愚かなんである。君等は法律を医者の薬と同じに考えているから困る。薬は病気にかかってはじめて要るものだ。然るに法律はそうでない。君等が一時たりとも法律を離れては存在し得ない。たとえば君等は大屋に渡した敷金なるものは如何なる性質のものか知っているか。よろしい。之は或いは知っている方もあろう。ところで君等の中には大屋もいるだろう。その人々はその敷金を消費することがはたしてどの程度に正しいか知っているか。今日君等は電車で又はバスでいや或いは円タクでここへ来たろう。電車に乗って切符を買うことはどういうことか知っているか」<br />
　大学生と見える男は法律の話をしている。<br />
　藤次郎は、法律なら俺には判るぞ、とその男の話をききはじめた。<br />
「抑《そもそ》も電車の切符は、片道七銭也の受取であるか、それとも電車に乗る権利を与えたことを認めた一つの徴《しるし》であるか、之が君等に判然とわかるか。本書第百二十八頁に、大審院の下した所の判例がある。ちゃんとその点は判例を以って説明してある。円タクで来た諸君に問おう、君等はもし途中で円タクが動かなくなったらどうする。たちの悪い運転手は新宿からここまでのせるのをいやがって本郷あたりで故障だからといって君等を下ろしてしまう。このあいだもそういう目にあった人が僕の所へ相談に来た。僕は直ちに本書第三百一頁を開いて見せた。ほら、ここに明かに記《しる》してある。斯くの如く法律知識は必要なものであるにかかわらず、多くの人は殆ど其の必要を感じていないとは実に解すべからざる事実である。法律を知らずして世を渡らんとするは、闇夜に灯火なくして山道を歩くようなものではないか。<br />
　然し、諸君、君等はいうだろう、それは民法に就いてのみ云うべきことである。刑法などの知識は正しい人にとっては必要はないと。だから困るんだよ。いくら正しい人にでも其の知識は絶対的に必要なのだ。例をあげて見ようか、仮りに諸君の中に気狂いがいて、いや之は失敬、諸君の中には無論いない、いなければこそこうやって僕の云うことを静聴していらるるわけだが、だが、諸君、世に馬鹿と気狂い位恐ろしいものはない、今ここで僕が斯うやって話をしているとき、突如気狂いが刀を抜いて斬りつけて来たらどうするか、逃げ得れば問題はない、その間がないのだ。やつを殴るか斬られるか、という場合だ。判り切ってるじゃないか、無論殴ればいいと君らはいうだろう。よろしい、然し殴り殺してもいいかね。よろしいか、ここで一寸考えて貰いたいのは相手が気狂いだという所だ。我が国の法律は勿論、大ていの国では気狂いには刑事責任を負わしては居らん。気狂いが人を殺したとて無罪になるにきまっとる。その気狂いの行為に対して正当防衛が成立するかどうかという問題なのだ。それ、刑法にはただ『急迫不正ノ侵害』と書いてあるのみで一こう詳しいことは書いてない。之については大家の説がいろいろある。然し大体に於いて積極説に一致している。君らも或いは結論に於いては同じ考えかも知らん、が、その理由を知っているか、更に例をかえて、もし狂犬が現われたらどうする。無論君らは、之をぶち殺すだろう。この際之は正当防衛といえるか。抑《そもそ》も動物に対して&hellip;&hellip;」<br />
　ここまで聞いて来た時、藤次郎は右側の男に一寸突かれたように感じた。妙な気がして右の袂に手をつっこんで見るとさっき買った敷島の袋が見えない。あわてて首から紐をつけて帯の間にはさんである蟇口に手をやるとたしかにあるので安心したが、もう右側の男はどこかに行ってしまった。煙草一袋だが掏《す》られた感じはひどくいやなものだった。<br />
　彼は大道の法律家をそのままそこに残してぐるりと歩をめぐらした。そうして池畔を廻って&times;&times;館という映画館に入ってしまった。<br />
　彼が席に腰を下ろして、卵をむしゃむしゃやりはじめたとき、映写されていたのは外国の喜劇であった。<br />
　朝から不愉快な思いに悩みつづけていた彼は、ようやく、そのスピードの早い写真を見て胸の悩みを一時忘れることが出来た。そうしてそれが終って次の映画がはじまる頃は、彼は全く夢中になってそれに見入っていた。<br />
　それは一種の犯罪映画であった。或る悪人の学者が――説明者はそれを博士博士と云っていた――財産を横領せんが為に、何とかいう伯爵夫人を殺そうとするのである。伯爵夫人といっても舞台がフランスだから伯爵の妻ではなく、夫はないのだ。そしてその女が死ねばどうして博士に財産がころがりこむことになっているのだか其の辺はよく藤次郎には判らなかった。しかしそんなことはどうでもいい。この映画の中で、面白いのはその博士が伯爵夫人を殺す方法で、彼は自分で手を下さない。ここに或る美男青年が現われるが、博士はその男に催眠術をかける。男はその暗示に従ってある夜半、夢中の中に恋人伯爵夫人を殺してしまう。<br />
　時計が大写しになる。正に二時五分前。<br />
「其の夜の二時頃であります。彼はがばとはねおきました。彼は夢中のまま伯爵夫人の部屋へと進むのであります。ドアー（説明者は戸のことをドアーと発音した）の鍵穴よりうかがい見れば&hellip;&hellip;」<br />
　説明者の説明につれて映画はクライマックスに達する。夢の中で自分の部屋から出かけて行く所を、その青年に扮した役者は非常に巧みに演じた。彼は説明者のいうところと一寸違って伯爵夫人の寝室の戸をこつこつと叩く。夫人は恋人の声を聞いて戸を開くと、男が不意にとびかかって絞殺する。この辺は極めてスリリングであった。藤次郎は空になった卵の袋を握りしめながら映画に見入った。<br />
　之から名探偵の活躍となりついに博士がほんとうの犯人であることがわかる。博士はいよいよ追跡急なるを知るや自動車をとばせて逃げだす。結局は逃げ場がなくなって自殺をしてしまい、青年は許されておまけに百万長者となるという、後半は全くくだらないものだった。<br />
　が、藤次郎は息をもつかずにこの映画を見終った。<br />
　彼が&times;&times;館を出たのはもう夜になってからである。いつもなら他の館に入る彼は何思ったか田原町まで歩いて電車に乗った。<br />
　藤次郎は切符を切って貰う時に、それが法律上如何なる意味をもっているかというようなことは考えなかった。彼の頭の中には、さっき見た映画が浮んでいた。殊に青年が一人ひそかに部屋から忍び出る所が残っていた。<br />
　電車が四谷見附を走っていた頃に彼の脳中を駈けまわっていたのは、全く他の事だった。<br />
「気狂いが刀をぬいて来たらどうする。殴り殺してもかまわないか」<br />
　というあの大道法律家の言葉が又頭に屡々《しばしば》浮んで来た。</font><br />
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